大阪地方裁判所 平成元年(ヨ)118号 決定 1990年2月02日
申請人
灰孝小野田レミコン株式会社
右代表者代表取締役
山内敏宏
申請人
洛北レミコン株式会社
右代表者代表取締役
井辻正和
右申請人ら代理人弁護士
竹林節治
同
畑守人
同
中川克己
同
福島正
右申請人ら復代理人弁護士
松下守男
被申請人
全日本建設運輸連帯労働組合 関西地区生コン支部
右代表者執行委員長
武建一
右被申請人代理人弁護士
内橋裕和
同
髙野嘉雄
同
三住忍
主文
一 申請人らが被申請人に対し各金一〇〇万円ずつの保証を立てることを条件として、被申請人は、その所属する組合員または第三者をして、被申請人に所属しない申請人らの従業員または申請人らの取引先従業員が、申請人らの工場において製造した生コンクリート等を申請人らの納入先現場に搬入するのを、右納入先現場またはその周辺の道路上において、生コンクリート輸送の貨物自動車の進路に立ち塞がるなどして、実力をもって阻止妨害させてはならない。
二 申請費用は被申請人の負担とする。
理由
第一申立て
一 申請の趣旨
主文第一項中、立保証を命じた部分を除き、主文第一、二項同旨。
二 申請の趣旨に対する答弁
1 本件各申請をいずれも却下する。
2 申請費用は、申請人らの負担とする。
第二当裁判所の判断
一 疎明と審尋の全趣旨によれば、次の事実が一応認められる。
1 申請人灰孝小野田レミコン株式会社(以下、申請人灰孝という。)は、肩書地に本店を、滋賀県大津市本宮一丁目四番二六に大津工場を、同県栗太郡栗東町伊勢落弁才天に栗東工場を置き、生コンクリート、モルタル、セルフレベリング(床下地材)等の建材の製造、販売等を業とする株式会社であり、申請当時における従業員数は七四名である。
申請人洛北レミコン株式会社(以下、申請人洛北という。)は、肩書地に本店及び工場(洛北工場)を置き、右と同様の営業をする株式会社であり、申請当時における従業員数は二五名である。
申請人らは、役員を一部共通にし、日常の業務を互いに応援し合ういわゆる関連会社であり、前記の大津工場、栗東工場と洛北工場とは、形式的には別会社に属するものではあるが、実質的には一個の会社に属する三個の工場とみてもよいものである。
一方、被申請人は、生コン産業及び運輸、建設一般産業等で働く労働者によって組織された労働組合である。申請人灰孝においては、昭和五五年五月に従業員計二九名が被申請人に加盟し、灰孝小野田レミコン大津分会(二五名)及び灰孝小野田レミコン栗東分会(四名)を結成した。申請当時、大津分会には一七名、栗東分会には四名が属している。また、申請人洛北においては、昭和五六年七月に従業員八名が被申請人に加盟し、洛北工場において洛北レミコン分会を結成した。申請当時の分会員数も同数である。
2 昭和六二年三月五日、被申請人は、京都地区に被申請人の分会がある生コンクリート等の製造、販売を業とする申請人らを含む七社に対して春闘統一要求書を提出し、そのうち一社を除く申請人らを含む六社との間で集団交渉を継続して行ったが、その交渉は容易に妥結せず、被申請人においては、要求貫徹のため、いくつかの争議行為を行った。同年八月七日、右六社のうち三社については交渉が妥結したが、申請人らと被申請人との間では交渉は妥結せず、それ以後なお交渉を継続したものの、同月一八日には事実上交渉決裂の状態となり、現在にいたっても紛争は解決していない。
ところで、右交渉決裂前の同年七月二〇日、申請人らは、被申請人に対し、従来の労働協約の一部を同年一〇月二一日以降一方的に廃棄する旨の通告をした。右廃棄通告がされた協約のうちには、残業時間の平均化に関するものが含まれていた。その内容は、賃金対象期間(毎月二一日から翌月二〇日まで)の各従業員の残業時間をできる限り平準化するものとし、その残業時間が車両乗務員については四五時間、誘導員については四〇時間に満たないときは、その不足時間に応じた賃金を申請人らにおいて従業員に保障することとするというものであり、この残業時間の平均化を具体化するため、申請人らは、三か月の残業調整期間を設けてその期間中の各従業員の累計残業時間数(前記の実働しない残業時間数を含む。)を平準化するよう努力するものとし、日々においては、それまでの残業時間数の少ない者から順に翌日の早出勤務と残業の指示をし、かつその早出勤務者のタイムカードの打刻時刻の順序で出荷作業をさせるという方法で右協約の趣旨を実現するようつとめてきた。ところが、申請人らは、右のとおり同協約廃棄の通告をし、早出勤務者の指名方法も一方的に変更し、同年一〇月二一日以降は、洛北工場においては各日ごとに従業員が作業を終了して帰着した順に翌朝の早出勤務を指示するという方法を採り、また大津工場、栗東工場においても、理由のいかんを問わず休務者を除外し、出勤者のみを対象として出荷指示室担当責任者(大津工場)または運輸責任者が業務課(栗東工場)が早出勤務の指示をするという方法を採用した。その結果、各人の残業時間にはかなりの格差が生じることが予測される事態となった。その後現在まで、残業時間の点に関して従来の協約に代わる新協約は締結されていない。
3 申請人らと被申請人との間の交渉が妥結せず、とくに昭和六二年七月二〇日に申請人らから被申請人に対して、残業時間の平均化に関する協約の一方的廃棄が通告され、このままでは被申請人の納得しない方法で出入荷の作業が実施されることとなったことから、被申請人は、争議の一環として、前記の三分会の組合員が中心となり、これに支援の組合員らも含めて、大津工場では同月二一日以降、洛北工場では同年一〇月二一日以降、従来どおり残業時間を平均化し、したがってまた過去の残業時間数の少ない者から順に早出勤務の指示をすべきである旨の主張をして、大津工場及び洛北工場において、生コンクリート等の出入荷を阻止する活動をくり返して行った。その活動は、分会員自身による出荷作業を申請人らの指示に従わないで停止させる方法によるほか、被申請人所属の組合員以外の従業員及び申請人の取引先従業員による出入荷作業を阻止する方法によるものが含まれており、そのいずれについても、平和的説得により申請人らの出入荷業務の遂行を一時停止、断念させる域を超えて、実力をもって右業務運営を阻止するところがあった。その結果、大津工場に関しては、申請人灰孝の申請に基づき、昭和六三年一月二五日、大津地方裁判所において、大津工場における生コンクリート等の搬出、搬入業務の妨害禁止の仮処分決定(同裁判所昭和六二年(ヨ)第一六九号)がされ、また、洛北工場に関しては、申請人洛北の申請に基づき、昭和六三年三月四日、京都地方裁判所において、洛北工場における右同様の業務妨害禁止の仮処分決定(同裁判所昭和六二年(ヨ)第一二九一号)がされた。
4 さらに、被申請人においては、申請人らの工場外において、申請人らが製造した生コンクリート等を申請人らのいずれかが所有する車両または申請人らの傭車先である有限会社田辺運輸などの車両を使用して納品先現場に搬入するのを、次の(1)以下掲記のとおり阻止する活動をつづけた。
なお、申請人灰孝の主な営業区域である大津市付近においては、生コンクリート等は、顧客から滋賀県南西部生コンクリート卸協同組合(以下、卸協組という。)に注文がされ、そこから製造業者の組織する大津生コン協同組合(以下、生コン協組という。)に受注が指示され、生コン協組から各業者に受注が配分されて納品が指示され、この指示に基づいて各業者から顧客への納品がされる。以下の申請人らの生コンクリート等の納品は、(以下においては具体的に判示しないが、)右の経路による注文と受注の配分、納品の指示に基づいて行われたものである。
(1) 昭和六三年一月二九日、申請人灰孝は、清水建設株式会社からの注文に応じて、大津市長等一丁目一の三五所在の大津日赤病院の工事現場に生コンクリートを納品することとなり、被申請人に所属しない従業員が、コンクリートミキサー車(以下、単に車両という。)を運転して輸送、納品の作業にあたった。右車両が右現場の西出入口に到着すると、そこに集まっていた被申請人の組合員及び支援者ら約二〇名が車両前部に立ち塞がり、そこに寄り掛かるなどして車両の進行を阻止し、このままでは右組合員らに傷害を負わせるのでなければ車両を進行させることができない状態とした。右組合員らは、さらに、現場出入口付近に到着した後続の車両二台の入構も、車両前部に立ち塞がり、あるいはその一台のフロントタイヤのエアーバルブを抜いてタイヤをパンクさせるなどして入構を阻止した。一方、組合員らは清水建設に対して納入業者を他に振り替えるよう求めたが、清水建設は、右状態では生コンクリートの搬入がされず、工事を続行することができないため、やむなく右組合員らの要求を容れて、卸協組に納入業者を他に振り替えるよう求めた。申請人灰孝は、右各車両による納品が阻止されたまま時間が経過し、積載の生コンクリートが変質してジス規格に適合しない状態となったため、これを廃棄し、さらに右の納入業者の振替えにより右三台の後につづく車両による納品ができなくなったため、そこに積載したものも廃棄した。
(2) 右(1)と同日午前、申請人灰孝は、清水建設からの注文に応じて、大津市御陵町三の一所在の大津総合保険センタービルの工事現場に生コンクリートを納入することとなったが、納入車両の九台目の被申請人に所属しない従業員が運転する車両が現場の誘導員の指示にしたがい後進して現場内に入構しようとしたところ、付近にいた被申請人の組合員及び支援者ら約二〇名が、車両の前後に立ち塞がり、さらにそのうちの二名が車両の後方に足を投げ出すなどして入構を阻止した。右運転者は、このまま車両を進行(後進)させれば右の者らに傷害を負わせるほかない状態であったため、入構をやむなく断念し、かつ積載の生コンクリートが変質して製品としての価値を失ったため、申請人灰孝の指示によってこれを廃棄した。当日、現場での工事がほぼ最終段階に達しており、その工事をすみやかに完了したいと考えていた清水建設のつよい求めにより、申請人灰孝はその午後にも生コンクリートを現場に納入しようとしたが、午前と同様に車両の入構が阻止され、かつ、(1)と同様に右組合員らの納入業者振替えの要求に応じざるをえなくなった清水建設が申請人灰孝による納品をことわったため、納品を断念し、車両積載の生コンクリートを廃棄した。
(3) 昭和六三年一二月七日、申請人灰孝は、東レ建設株式会社からの注文に応じて、大津市園山二丁目一一所在の東洋レーヨン株式会社園山B5工事現場にモルタル、生コンクリートを納入することとなった。納品の作業に従事した車両のうち、七台目の生コンクリートを積んだ被申請人に所属していない従業員の運転する車両が現場手前で指示をうけて現場内に入構するため後進し始めたところ、被申請人の組合員ら十数名が、車両の後部に立ち塞がり、同後部に寄り掛かるなどして、入構を阻止した。この状態が継続して右車両が入構できないでいるうちに、右組合員らから納入業者振替えの要求をうけた東レ建設が工事続行のためやむをえず卸協組を通じて他の業者に納品させるよう手配し、申請人灰孝による納品をことわったため、申請人灰孝は、右車両及び後続の二台の車両による納品を断念するほかなくなり、積載の生コンクリートを廃棄した。
(4) 右(3)と同日、申請人洛北は、清水建設からの注文に基づき、コスモ上賀茂工事現場に生コンクリートを納入することとなり、被申請人に所属していない従業員(日々雇用の者)が運転する車両が工事現場近くの京都府道京都広河原美山線通り京都バス柊野分れバス停留場付近所在の待機場所に着いて待機していたところ、そこに集っていた被申請人の組合員ら約二〇名が車両前部に立ち塞がって現場に入構するのを阻止した。右車両は、その場にいた警察官の説得があって、現場に入構して荷卸しをすることができたが、右待機場所に入構の順番待ちのため待機していた被申請人に所属しない従業員(日々雇用の者)の運転する後続の車両も、右組合員らにより右と同様に現場内への入構が阻止され、その車両に積載した生コンクリートは、時間の経過によって製品価値を失い、申請人洛北において廃棄するほかなくなった。
(5) 昭和六三年一二月一四日、申請人灰孝は、村本・笹川共同企業体からの注文に応じて、滋賀県栗太郡栗東町大字小野所在の歴史民族博物館の工事現場にモルタル、生コンクリートを納入した。当日、納品の作業に従事した車両のうち一五台目の生コンクリートを積んだ被申請人に所属していない従業員(日々雇用の者)の運転する車両が現場手前の待機場に到着し、次いで後続の同様の車両七台が順次待機場に着き、前の車両が現場構内で荷卸しをして外に出るのを待って駐車していた。そのとき、被申請人の組合員及び支援者ら約五〇名が、組合の宣伝カー、マイクロバス、乗用車等に分乗して待機場に着き、右一五台目の車両、次いでその次に入構する予定の車両の前部に立ち塞がり、車両前部に寄り掛かり、さらに右各車両に順次現場内に入構するよう指示していた被申請人灰孝の役職者を取り囲んで暴行を加えるなどして、その入構を阻止した。その結果、申請人灰孝は、右車両二台に積んだ生コンクリートを時間の経過による製品価値喪失のため廃棄した。さらに組合員らは、右二台に続いて現場に入構する予定の二台の車両についても、車両前部に立ち塞がり、その一台のエアータンクのドレーンコックのバルブを開いてエアーを抜くなどして、その入構を阻止しようとしたが、こうした行為に役職者らが激しく抗議したことから、右二台及び後続の車両は入構して荷卸しをすることができた。
(6) 昭和六三年一二月二一日、申請人灰孝は、株式会社浅沼からの注文に応じて、大津市皇子が丘一丁目所在のネオハイツ皇子が丘の工事現場に生コンクリートを納入した。納品作業の途中で、被申請人に所属しない従業員が、その運転してきた車両に積載した生コンクリートを、同車両後部に接続したポンプ車に荷卸ししていたところ、組合の宣伝カー、バス、乗用車に分乗した被申請人の組合員、支援者ら約五〇名が現場に到着し、同組合員らが右車両前部や運転席側面に立ち塞がり、右荷卸し後に車両のドラム内の洗浄作業をするのを妨げ、さらに同車両から現場から外に移動するのを阻止しようとした。次いで後続の同様の車両が現場に到着したが、右組合員らは、車両前部に立ち塞がり、運転席横のステップにとび乗って運転者に荷卸しをしないようつよく求め、さらに右運転者が求めに応じないで荷卸しのため車両をポンプ車に接続しようとして後進させ始めたのに対し、車両後部に立ち塞がって右運転者の作業を阻止しようとした。このような状態がしばらく続いたが、機動隊員とみられる警察官多数が現場に到達するのを見て組合員らが現場を立ち去ったため、右車両及び後続の車両は荷卸しをすることができた。
(7) 平成元年一月一八日、申請人灰孝は、株式会社中野組からの注文に応じて、京都市左京区岡崎円勝寺九一の六〇所在の上羽邸新築工事現場に生コンクリートを納入した。その作業に従事した被申請人大津分会所属の従業員は、その運転する車両から生コンクリートを荷卸ししたのち、現場出入口付近に車両を停止させ、運転席のドアを内側からロックして開閉できない状態にし、車両備付けの無線機でストライキをする旨申請人灰孝に通告した。同車両が現場出入口付近に停止しつづけることにより他の車両による生コンクリートの搬入が妨げられることとなったため、申請人灰孝の役職者らは右運転者を説得して車両を移動させようとしたが、折から組合の宣伝カー、バス、乗用車等で現場に集ってきていた被申請人の組合員、支援者ら約九〇名が、車両の周囲に立ち塞がり、車両に寄り掛かり、役職者らに体当たりし、右車両を移動させるため右運転者を下車させようとして運転席に入ろうとした役職者の一人を引きずり降ろすなどして、車両を移動させるのを阻止した。組合員らは、現場に来た警察官の説得により右行動を中止したが、後続の車両四台に積載した生コンクリートは、車両が現場内に入れないでいるうちに製品価値を失ったため、廃棄するほかなくなった。
(8) 平成元年一月二七日、申請人灰孝は、野口建設からの注文に応じて、京都市北区大宮中林町五二番地所在の新江マンション工事現場に生コンクリートを納入した。当日、工事現場に被申請人の組合員ら約八〇名が集まっていたが、そこでストライキ突入を宣言した。その後しばらくして被申請人洛北分会所属の従業員が運転する車両が現場に到着したが、同運転者は、現場構内に停止しているポンプ車の約三メートル手前で車両を停め、車両備付けの無線機で指名ストライキをする旨通告し、積んできた生コンクリートをポンプ車に荷卸ししないまま、運転席の内側からドアをロックして開閉できないようにした。このままでは他の車両による生コンクリートの搬入ができなくなるため、役職者らは、右車両ドアの合鍵を取り寄せるなどして車両を移動させようとしたが、役職者らが車両に近づこうとすると、組合員らはこれを取り囲み、体当たりするなどして、役職者が合鍵でドアを開けて運転席に入るのを阻止しつづけた。
その後、申請人らが傭車した有限会社田辺運輸の従業員が運転する車両が現場に到着したところ、右組合員らは、同車両の進行方向に立ち塞がり、エアータンクのバルブをゆるめてエアーを抜いてブレーキが作動しにくくなるようにし、あるいは同車両備付けの歯止めをタイヤに差し込んで車両の進行を止め、さらに前記洛北分会員は、停止させていた車両を移動させて、田辺運輸の従業員運転の車両が荷卸しのためポンプ車に接続するのが困難になるような位置に停車させた。右のような抵抗をうけながらも、役職者が歯止めをはずし、田辺運輸の従業員が車両を辛うじてポンプ車に接続させて生コンクリートの荷卸しを始めたところ、組合員の一人が同車両の運転席に突然入り、エンジンを停止させたため、右荷卸しは一時できなくなった。
なお、前記洛北分会員運転の車両に積載した生コンクリートは、荷卸しされないまま時間が経過して製品価値を失ったため、廃棄するほかなくなった。
(9) 平成元年二月一五日、申請人灰孝は、都建設株式会社からの注文に応じて、大津市皇子が丘一丁目七所在の老人憩いの家工事現場に生コンクリートを納入した。当日、被申請人の組合員ら四〇名余が組合の宣伝カー、マイクロバス、乗用車を利用して工事現場出入口付近に集ったが、その直後に、現場構内で車両積載の生コンクリートの荷卸しを終えた被申請人大津分会所属の従業員が、その運転する車両を現場出入口に停止させ、前同様に運転席のドアをロックしたうえ、無線機でストライキを行う旨申請人灰孝に通告した。このため、後続の車両が現場に到着したものの、現場内に入構することができず、市道上で待機せざるをえない状態となった。申請人灰孝の役職者や都建設の現場作業員らが右分会員運転の車両を現場から離れるよう求めたが、右分会員を含む組合員らはこれに応ぜず、一部の組合員らは、役職者を取り囲んで殴打するなどの暴行を加え、また、現場作業員に、申請人灰孝の生コンクリートを使用するな、などとつめ寄った。この結果、申請人灰孝は、当日納品を求められていた生コンクリートの納入が一部できなくなった。
5 申請人らと被申請人は、両者の間の紛争が前記のように継続して容易に鎮静化する気配もなかったが、本事件と並行して当裁判所に係属している昭和六三年(ヨ)第七八八号横断幕設置禁止仮処分申請事件における裁判所の勧告にしたがい、平成元年二月一六日ごろ以降当事者間で和解交渉をつづけ、これに伴い被申請人は、右4のような争議行動を一時中止した。しかし、昭和六二年春闘以降の懸案が解決せず、また同年二月に申請人灰孝により懲戒解雇された被申請人組合員二名の処遇についての話合いもまとまる目途が立たず、これに加えて、右春闘時以降の交渉や争議行動の際など及び右事実上の休戦期間中における申請人灰孝の役職者の一人の被申請人組合員らに対する言動に、同組合員らにとっては挑発的あるいはいちじるしく誠実を欠くとしか受け取れないものがしばしばあったことが事実上の障害となって、右和解交渉は同年一〇月末ごろには行き詰まりの状態となった。被申請人は、同年一〇月末日付で、申請人らに対し、休戦状態は維持できず、争議行動を行うことを宣言し、かつ同年一一月二七日付で、申請人らの取引先に対し、紛争解決まで、申請人らとの取引を継続せずに停止し、すでに取引契約が成立している分も解除してほしい旨を記載した要望書を送付した。そして、被申請人の組合員らは、次のような行動を行った。
まず、平成元年一一月二九日、被申請人の組合員ら約一〇〇名が、バス、乗用車で大津工場内に入り、そのうち約三分の一が申請人灰孝の事務所内に入り、そこで執務中の役職者二名及びその後かけつけた役職者一名に対し、暴行を加え、事務所出入口のドアを内側から施錠し、窓のカーテンを閉めたうえで、さらに暴行をつづけた。組合員らのうち六名が右暴行に関与した疑いで後日大津警察署により逮捕された。
また、前記一〇〇名の組合員らのうち約三〇名の者が大津工場東出入口付近に集まり、傭車先の田辺運輸の従業員が運転する車両三台が順次生コンクリートを積んで出荷のため順次同出入口から出構しようとしたのに対し、各車両の前部に立ち塞がってその出構を一時阻止し、とくに三台目の車両については、運転者を運転席からしいて降ろし、エンジンキーをはずして同車両を停止させた。さらに、傭車先の国元建設及び潮商事の従業員が運転する車両二台が、出荷のため右東出入口から西出入口に廻って出構しようとしたが、同西出入口付近に集まっていた組合員ら約三〇名が、出入口を封鎖するように立ち塞がり、右各車両の出構を妨げた。申請人灰孝は、組合員らの右行動により出荷が遅延し、出荷予定の生コンクリートの一部が変質し製品価値を失ったため、その一部を廃棄した。
次いで平成元年一二月四日、大津工場において、被申請人大津分会所属の従業員が、生コンクリート出荷のため車両を運転して東出入口付近に差し掛かったさい、突然車両を停止させ、車両備付けの無線機で申請人灰孝に指名ストライキをする旨通告し、運転席のドアを内側からロックして停車をつづけた。これに対し、役職者が右運転者に後続車両の出構を妨げることになるので車両を移動させるよう指示したが、その付近に集まっていた被申請人の組合員ら約二〇名が役職者を取り囲んで右車両の移動を指示するのを阻止し、後続の田辺運輸従業員運転の車両二台が出荷のため出構しようとするのを車両前部に立ち塞がって阻止した。田辺運輸の従業員運転の車両二台は、西出入口に廻って出構しようとしたが、前記と別の大津分会員がその運転する車両を同出入口を封鎖するように停め、かつ被申請人の組合員ら約二〇名が、右二台の車両の前部に立ち塞がって出構を阻止した。先のスト通告をした従業員運転の車両に積んだ生コンクリートは、製品価値を失ったため、申請人灰孝において廃棄した。
また、右同日、洛北工場においても、被申請人洛北分会所属の従業員が出入口にその運転する車両を停止させて運転席に立てこもり、他の車両が出荷のため出構するのを阻止しようとした。
その後も労使紛争は解決のきざしのないまま継続しており、被申請人は、従来と同様の争議をつづける方針を変えていない。
二 以上の事実によれば、次のようにいえる。
被申請人の各工場及び申請人らの納品先における出入荷及び搬入作業の阻止の行動は、申請人らとの間の労使紛争における被申請人の要求をできる限り実現し、とくに従来の労働協約による残業時間の平均化と早出勤務の指示の方法をできるだけ維持しようとする意図に出たものであり、右協約の点に関しては新協約が未だ成立していないため従来の協約がなお効力を残しているとみる余地があり、加えて前記のように申請人灰孝の役職者の一人の言動に円滑な労使関係を回復するのに障害となるところがあったことを考えると、被申請人がその納得しない作業方法で行われることとなる出入荷及び納品先での搬入の阻止行動に出ること自体は理解できないわけではない。ところが、被申請人は、本件で問題となる納品先におけるものについてみると、その組合員が自己の運転する車両を組合員以外の従業員らの運転する車両による作業の障害となるように停車させ、また、組合員らが被申請人に属しない従業員らの運転する車両に立ち塞がり寄り掛かるなどし、ときには右従業員らや作業を進行させようとする役職者らに暴行とみるほかない有形力を加えて作業を阻止し、あるいは、労使紛争についてはまったくの第三者である納品先に対して申請人らからの納品を拒否するようつよく要求し、その納品を拒む意思もないのにその時に実施している工事に支障を生じることをおそれて申請人らからの納品を拒否することを余儀なくさせる、などの行動をしているのである。被申請人の組合員らのこれらの行動は、労働組合の正当な活動として許される平和的説得ないしこれと同視できる程度の方法による申請人らの業務阻止の活動の範囲を超えた実力行使というほかない。被申請人は、これらの行動を一時中止していたが、申請人らの工場においては、従来と同様の実力行使による出荷阻止行動を再開しており、被申請人らの取引先に対して取引の停止を要望し、かつ労使紛争がまったく解決していない現状においては、納品先においても、従来と同様の実力行使による生コンクリート等の搬入阻止の行動が行われることが予想される。そして、被申請人の右のような行動により申請人らは生コンクリートを廃棄せざるをえなくなって、多額の経済的損失をこうむったことが前記事実から一応認められ、納品先において同様の行動が再開されれば、申請人らは同様の損害をうけることがうかがえる。
以上のことから、申請人らは、その保有する車両の所有権(なお、疎明によれば、車両の所有権が販売会社に留保されているものがあり、その場合には申請人はその車両について使用権限を有しているだけであることが一応認められるが、その使用権限は本件では所有権と同視してよいといえる。)または傭車についてはその利用権限ないしは自己の車両または傭車を利用して行う申請人らの営業権に基づいて、被申請人がその組合員または第三者に主文掲記の実力による生コンクリート等の搬入阻止の行為をさせるのを差し止めることを求める被保全権利を有し、かつその差止めを求める保全の必要性もあるということができる。
以上のとおり、本件申請は理由があるので、本件における事情を考慮して申請人らに主文掲記の保証を立てることを条件として申請を認容し、申請費用の負担について民訴法八九条にしたがい、主文のとおり決定する。
(裁判官 岨野悌介)